「何を切る?2月分解答」
に戻る


大貝 博美プロ の解答 

何切るを解くにあたり、
麻雀史についての基本的な知識が欠かせないことに
異を唱える人は皆無だろう。
したがって単に回答を出すだけなら2行ですむことだが、
今回は麻雀の進化に多大なる影響を及ぼしたある重大事件、
その真実を白日のもとにさらすのが私に課された使命だと思う。


時は終戦の数年後、所は都内某所のとある雀荘。
卓を囲むのは復興著しい日本経済界においても
とりわけ躍進目覚ましい、さる大企業の部長と課長に係長、
そして入社間もない平社員の4人。
部課内上下のコミュニケーションを円滑にし
さらに業績を上げんとの目的で持たれた場であった。
当時のルールは今でいうアルシーアルの一荘戦、
リーチやドラやノーテン罰符はおろか
サンショクもチートイツもイーペーコウもないという
非常にシンプルなもの。
最初は和やかな雰囲気で始まった対局ではあったが、
世間知らずの平社員が景気よくアガるかたわら
まるで出る幕のない部長の機嫌が次第に悪くなるにつれ、
重苦しい空気がどんどんたちこめていった。
そして3荘目の北場を迎え今回もノーホーラの部長がついにブチ切れた。
取ったばかりの配牌をおもむろに開き立ち上がる部長。

部長: 『もうやっとれん!見ろこの配牌、
 毎度毎度クズ牌が8種も9種もあったら
 どうやったってアガれんわい!わしゃもう帰る!』
課長: 『や、部長、ちょっとお待ちください。
 ここは私におまかせを。
 うーむこれは本当にひどい配牌ですなあ。
 ならばどうでしょう、
 ヤオチュー牌が配牌で9種類ある時は
 取り直しを要求できるという新ルールを作ってみては。
 なあ係長、君はどう思うかね』
係長: 『なんたる妙案!
 さすがはキレ者で鳴る課長、感服いたします。
 やはりスタート時点であまりにも差があっては
 勝負の興もそがれるというものですから。
 ではそれでまいりましょうか。
 そろそろ風向きも変わる頃合いでしょう』

マユツバと思われるだろうがこれが9種9牌倒牌の起源、これホント。
余談だがもしこの課長と係長が気の利かない人物であれば
この時に三家和流局も制定されていたはずだが、
それは数年後の話となる。
ともあれ機嫌を損ねたまま帰らせて
部長の覚えを悪くすることは防いだ課長と係長、
さしあたってのピンチは免れたかに思えた。
しかし続行と決まったあともアガるのは空気を読めない平社員のみ、
軽快に小アガリを重ねて北2局の親番もすでに5連荘。
部長の顔色はすでに赤を通り越して紫色に変じており、
気が気でないのは両脇のふたり。

係長: 『いかんな、君の麻雀は実にいかん。
 若いうちからそんなチマチマした手作りばかりしてるようじゃ
 部長や課長のような大きい人物には到底なれんぞ。
 ねえ課長、どうしたものでしょうね?』

突然自分に振られて言葉に詰まる部長、
しかしその瞬間またしても天啓が舞い降りる。

部長: 『うん、麻雀の醍醐味は大物手の成就であることを
 彼に知ってもらうために考えたことがある。
 親が5連荘したあとはふた役なければアガれない、
 というルールはどうだ。
 これならじっくりとした手作りが楽しめるのではあるまいか 』
係長: 『こりゃまた空前絶後の素晴らしいご意見でありますことよ!
 しからばそれで続行いたしましょう。
 もうすぐ部長の大胆かつ豪快なアガリが見られるかと思うと
 ワクワクしますな!
 今夜は伝説的な一夜になる予感がしてまいりました!』

二翻しばりの誕生である。
まあ昨今のフリー雀荘ではリャンシバはもとより
途中流局も無くなりつつある方向と思えるので、
このあたりの顛末は現代に生きる我々にとってさして重要なものではない。
しかし現在の麻雀に大きく関わる事件がこのあと起こるのである。
ところで「いつになったら”何切る?”の回答を言うのか」と
いぶかっておられる方もおられよう。
心苦しい限りだがなにぶん筆者もどう続けるか悩んでいる最中なので
とりあえずもうしばらくおつきあいいただきたい。
ことによるとアクセスしてくださった方々の半数くらいは
すでに読みやめてしまったかも。
話を戻す。
それは件のリャンシバ提唱で再開となった直後に起こった。
中盤過ぎ、開始以来一度もアガることのなかった部長が
ついに轟音とともにツモ牌を叩きつけたのである。


部長: 『ついにやったぞタンヤオにツモだ!
 どうだ若造、思い知ったか!
 真の手作りとはこうやるもんだ!!』

常軌を逸したほどの騒ぎぶりではあったが、
上司の初ホーラを切に望んでいた課長と係長にとっては
それすらも耳に心地よいものだったに違いない。

部長&課長:『さすが、お見事!!』

手を見ないうちから絶賛とは傍から見れば喜劇以外の何物でもないが、
ふたりがそれほどの安堵を覚えたことは想像に難くない。
部長が鼻息も荒くその手牌を開ける。

ツモ

課長&係長: 『・・・・・ 』
部長: 『あっ・・・・・』

どうやら部長の頭の中のソーズの形はだったらしい。

平社員: 『(平然と)チョンボですね』
課長: 『な、な、何を言うかっ!
 これは部長殿が新しく開発された役だ!
 役名は・・・あれだ、そう、ニコニコだ。
 日本国民がみな笑顔で暮らせることを
 祈念して名づけられたものだ!
 先の幹部会で決まったのを君は知らんのか!
 社内への公示はそろそろだったかな、係長?(汗)』
係長: 『わ、私も噂だけは確かに聞いております(汗)。
 いやいや新役のお披露目のために
 初アガリをとっておかれるとは
 さすが部長、我々とは人間の器が違いますなあ(汗)』
部長: 『そ、それほどでもないがね。ワハハハハ(大汗)』

現代の麻雀を語るに不可欠なチートイツはこうして生まれ
瞬く間に巷に広まったわけだが、
この成り行きについては厳しい箝口令が敷かれたため知る人は少なく、
この逸話が文字になるのもこの記述が初めてと思われる。
麻雀がアメリカに渡った時作られた役だというのは
実にもっともらしい説だが、
真実を知る私には策士たる課長により
何らかの情報操作がなされたように思えてならない。


前置きがまあまあ長くなった。
そろそろ本題の何切るに言及しよう。
とはいえここまで丹念に読んでくださった賢明なる麻雀ファンの方々には
私の回答などすでにお見通しだろうから、
以下は蛇足にしかすぎないのだが。
開局のマンガン放銃で迎えた親番、
配牌を取ってみれば煌々たる中張牌ラッシュ。
いくぶん脈拍も高まるところだが、ここは落ち着くことが肝心。
まずこの牌姿からの現実的かつ理想的なテンパイ形は







こんなところだろうか。

となると設問図から切るべきはソーズ、
すなわち
はあまりに形を決めすぎだと思うので)
ということになりそう。
なるほどこれらの仕上がりになれば
一躍アタマまで抜ける可能性もあっていうことないが
気になる点がただひとつ、
いずれもドラの引き込みが前提となっていること。
の部分が順調に2メンツになるようなツモは
普通は好調時のものであり、
出ハナにつまづいた状態でそんなにうまく事が運ぶものだろうか。
ツモがよれた場合を想定して打牌を決める方がよいのかも。
そこでいささか垢抜けないようだがここは打としたい。

理由のひとつは直接的なロスが無いこと。
たしかにソーズに手をかけた場合の
次ツモの第一希望がであるのに対して
とした場合の第一希望はツモとなり、
ツモはむしろ裏目となってしまう。
しかしその時は打としてまだまだ打てる上に
シャンテン数からみても致命的なミスとはならないように思える。
一方他の打牌にはそれぞれロスが存在し、
すでに手傷を負っている状況では
一手の遅れが致命傷になりかねないという経験則もあるため
一手もゆるがせにはしたくないということ。
なお「落ち目の時ならばドラよりの方が多少なりともツモりやすい」
と私自身が信じているのもソーズにさわりたくない理由ではあるが、
あまりにオカルトがかっていて説得力がないと思えるので
こちらも蛇足に留めておこう。

そして打とするもうひとつの理由はタテに伸びるツモへの備え。
前提はやはり「つまづいたあとに順調なツモは期待できない」ということ。
では「順調なツモ」とはどういうものを指すか。
普通は孤立牌がターツに、
ターツがすんなりとシュンツになってくれるツモのことであり、
ターツに重なるように来るツモは
いかに手幅が広がったとはいってもやはり順調とは言いがたい。
したがって指定局面のソーズの形にでもでもなく
を持ってくるような時は変調を疑い
よれヅモの覚悟も一応はした方がよいという、これも経験則。

そもそも設問図がシュンツ手に見えてしまうのは
ついをひいた形を想像してしまうからであって、
冷静に見ればそれをひけない時の
チートイツの可能性を無視することはできないはず。
そして順調なツモが来ないこと
(すなわちシュンツができないようなツモが来ること)
を予期していれば、
ひとつトイツが増えた時点で迷わずチートイツ一本に絞ることができる。
メンツ手とトイツ手の天秤は一兎をも得ないのが相場なので、
方針決定は早いに越したことはない。

さらに言えばここでシャカリキになってアガりを目指すのは
スタートで転倒したマラソンランナーが遅れを取り戻すべく
早々にスパートしてしまうようなもので、
よしんばうまく失点挽回できたとしても
終盤バタバタになるのがオチではなかろうか。
ましてや焦るあまりに攻めすぎてさらなる痛手を被ったりすれば、
これはもうこの半荘の終焉ともなりかねない。
というわけでここは「アガれたらもうけもの」くらいのつもりで
ディフェンスに主眼を置きつつ手を進めるのが、
結局は失地回復の早道かと思うのだがどうだろう。
そんな時に頼りになるのはやはりチートイツ。
嫌いな人がわりと多い手役だが、
アガリに向かいながらも受けやすいという特性は
体勢を崩した時にこそ生かすべきもの。

なので結論としては苦境の中妙案を捻り出し
チートイツの産みの親となった件の課長に感謝しつつ、
やはり打ということで。
最後までおつきあいくださりありがとうございました。
なおこの文章の内容についてのクレームは
一切お受けできませんので悪しからずご承知おきください。
m(__)m



「何を切る?2月分解答」
に戻る