People−9

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People 9 優しさの向こうがわ

長岡からスタートし、夕方に日本海岸線の柏崎というところに到着しました。
上越まではあと30数キロ、日が暮れてしまうので今夜はこの辺りでテントを張ることにしよう!
 ガサゴソ、ガサゴソ、「あっ、寝袋ちゃんとテントさんがびしょ濡れだぁ!」
{雨から身を守ることができるようになった僕は、
軽い安堵感からか重要なことを忘れ、走り続けていたようです。
後ろの荷台(寝袋、テント)にはビニールシートをかぶせていただけで、
これといった集中豪雨用の対策をしていなかったのです。}

ど、どうしよう?雨も、集中豪雨もこの辺りは心配もなさそうだし、
海辺に転がっていてもいいかなぁ、でも睡眠不足と疲労感がかなりピークだし、
今日はしっかりと寝ておきたいなぁ・・う〜ん・・
周りを見渡すと民宿やら旅の宿などがやたらと目に飛び込んでくる。
う〜・・よし!泊まっちゃお♪今日はリッチに宿に泊まろう!
そして僕は一番近くにあった宿をチョイスしたのでした。

ガラガラ〜、
おばちゃん店員 : 「いらっしゃいませ〜!」
僕 : 「どうも〜、一人ですけど部屋空いてますか?」
おばちゃん : 「空いてますよ、ちょっと時間が時間だけに
夕食の準備はできませんけど〜」
僕 : 「あぁ〜さっき済ませてきたんでいいですよ、
とりあえずビ〜ルとつまみでも下さい!」
僕が一人で飲んでいると近くにいたおねえちゃん達が
「一緒に飲まみませんか。」と話かけてきたので、
僕は仲間に入れてもらいました。
楽しいひと時を過ごし、僕は暖かい布団で眠りについたのでした★

翌朝、待望の晴天。気分爽快で目覚め、朝食を済ませてからモロロン号とご対面。
まだ旅は始まったぼかりだというのにモロロン号はかなり汚れておりました。
おばちゃんにホースを借りて、僕は朝早くからモロロン号を洗ってあげました♪

さぁこれからの目標は一路長野!
っというのも旅の途中で同じ大学の友人から何度か電話があり、
実家長野に帰って来るとのこと、
もしよかったら長野で会おうよとそんな話をしていたのです。
上越につけば長野までは80キロくらい、
まぁ行けないこともないと思うので、僕は長野に行くことを決めていました。
今日は8月5日、友達は8月8日に長野の実家に帰って来る予定なので、
まぁ日程的にはたぶん大丈夫でしょう。

せっかくの晴天、そして近くには海水浴場!
僕は昼近くまでビーチで日光浴を楽しみました。
さぁ、海とも戯れたしそろそろ出発しよう。
天気がいいと気持ちいいですね(喜)!

数時間走り上越に到着、今まではほとんど一本道だったのに
さすがにこの辺では道がいくつにも分かれておりました。
そしてなにやら変てこりんな道がある、
あとで知ったんですけどその道をバイパスというらしい。
長野に向かうにはこの変てこりんな道を通るのがどう見ても早い!
僕はその道を走り上越を後にしました。
(ちなみにバイパスはチャリ禁止みたいですよ)。

日もそろそろ落ちてきて、現在地は上越から
長野方面に20キロほど進んだ新井という所。
長野はみなさんもご存知のとおり高い山々に囲まれております。
ここから長野市に入るには妙高高原という2000メートル級の高原を
モロロン号で越えなければなりません。
(ちなみに北海道の羊蹄山で1898メートルです)
その妙高高原に入る一歩手前に僕は今晩テントを張ることにしたのです。

テントを張るところを探すのもめんどくさく、僕は主要道路からチョロッと
わきに入った空き地にテントを張ることを決めました。
テントを張っていると近くで犬の散歩をしていたおばちゃんが
どう見てもこっちに近づいて来ている。
こんな所にテントを張るなと怒られるのだろうか?
それとも僕のような旅人が珍しいのだろうか?
そんなことを考えているうちにおばちゃんは僕の目の前まで来ており話しかけてきました。 

おばちゃん : 「お兄ちゃんここにテント張って泊まるのかい?」
僕 : 「そうです、自転車で旅をしてまして、
今夜はここに泊まろうと思っているんですよ・・」
おばちゃん : 「あぁ旅してるんだ、大変だね、どこからきたの?」
僕 :  「北海道の札幌ですよ。」
おばちゃん : 「あら〜ずいぶん遠くから来たね、若いってすごいね!う〜ん・・・
そうだお兄ちゃん、野宿大変だろうから、
もし家でもよかったら泊まっていかないかい?」
僕 : 「え゛!!」
おばちゃん : 「なに、遠慮することないよ、これからも旅続けるんだろうから
今日ぐらい甘えて泊まっていきなさい。」
僕には断る理由など何もない、むしろそのおばさんの、
見ず知らずの僕への突然の言動に心底驚かされていたのです。
遠慮などというそんなことを考えているレベルではない、
このような優しさより遥かに次元の超えたおばさんの言動に
僕は一瞬の空白の後、喜びで目に涙を浮かべていました。
僕  : 「はい!お言葉に甘えて泊まらせてもらいます。
すいませんけど宜しくお願いします。」

数分歩きおばちゃんのお家に到着。
デカイ、とにかくデカイ、おばちゃんのお家はかなりの豪邸でありました。
家の中にはおじちゃんとおばあちゃんがいて突然の僕の訪問にビックリ模様!
でもおばちゃんが経緯を話すとすぐに、
「あぁそうなんだ家でよかったらゆっくりしていきなさい!」と笑顔で一言。
 おばちゃん:「おなか空いてるでしょ?今ごはん作ってあげるから、
お風呂に入って汗でも流しておいで!」
お風呂はジェットバス付の広〜いお風呂!あぁ、ホントにありがとうございます。
 僕がお風呂から上がりみんで夕食しながらのだんらん、
話は盛り上がり、お酒を飲みながら、さらにステキな時間を過ごす!
家族の皆さんは僕を心から受け入れてくれて
本当に楽しいひと時を過ごすことができました。
そして僕は暖かい布団で眠りにつき、次の日を迎えたのです。

 朝食もごちそうになり、ついにお別れの時。
おばあちゃん : 「ほれ、オニギリ作ったからおなかすいたらこれ食べなさい」
おばちゃん、おじちゃん : 「がんばってね、体に気をつけて旅つづけるんだよ、」
僕 : 「本当に、お世話になりました、この出会い一生忘れません。
またいつか会える日を楽しみにしています、
それでは本当にありがとうござました、(涙)」
家族のみんな : 「がんばってね〜!」
僕 : 「いってきま〜す!」
いつまでも手を振りつづけてくれている三人に別れを告げ
僕は長野への難関、妙高高原へと向かったのでした。

僕はこの家族と出会い、今まで知ることもなかった新たなるやさしさを知りました。
僕というあかの他人、その他人とはこれからもう会うこともないかもしれないのです。
まるで見返りを求めることのない本当のやさしさ、
人の心にまっすぐと伝わってくるやさしさ、
形だけではない、言葉だけではない、優しさの向こう側。
その一つとの出会い。
限りなく誰が見ても誰が同じ時間を過ごしても人間の理想とし、
描いている姿のような人たちと出会うことができた、
僕がこのような貴重な出会いに遭遇できたのにもきっと意味があるはずだ、
僕の感受性にはまだまだ欠けているところがたくさんあるだろう、
日常生活で、いつもと変わらぬ生活の中で、
もしこのような出会いがあったとしても、
はたして僕は同じことを思い、同じ考えをもったのだろうか?
自分が今いる環境の中だからこそ気づけたことなのだろうか、
もしそうだとしたらそれはとても悲しいことであり、
本来ならば望ましいことではないと思う。
それが普通のあり方だと言ってしまえばそれまでである。
まだ、僕の旅は始まったばかりだ、時間もたくさんある、
僕という人間の成長はもしかしたらここから始まるのかもしれない。

 つづく

QueenMark